去る2021年7月22日に、三陸海岸に面した岩手県の北端にある洋野町(ひろのちょう)で、「テロワージュ北三陸」が開催されました。
「テロワージュ北三陸」は、岩手県北部沿岸の海の幸、山の幸を、その土地の気候風土や、そこに住む人々の思いと共にいただく食のイベントです。
洋野町でうに養殖を営む株式会社北三陸ファクトリーさんが中心となって企画しています。うに生産の現場で、うにを手に取り、それをその場でいただく贅沢。シェフやソムリエによる素晴らしいお料理に舌鼓を打ちながらも、その場で最も印象に残ったのは、ここに集まる人々の熱い思いを感じた瞬間でした。このレポートで、少しでもその感動をお伝えしていきたいと思います。
今回は新幹線で青森県・八戸駅へ降り立ち、そこからローカル線である八戸線に乗り換え、会場となる洋野町の種市駅(たねいちえき)に降り立ちました。車窓からは有名な「種差海岸」の広々とした草原と海が見え、これからの「テロワージュ北三陸」に期待が高まります。
※写真はイメージです
会場に着くと、目の前は北三陸の海!ここで海を前に食事が食べられるなんて、贅沢な体験だと嬉しくなります。
ただ、その日は厚い雲が垂れ込め、雨もポツリポツリと降っているあいにくの天気…、と思っていたところ、主催者である北三陸ファクトリーの下苧坪之典(したうつぼ・ゆきのり)さんからのお話が。「あいにくの天気、と思うでしょう。でも、これがこの洋野町の夏なんです。夏なのに吹いてくる冷たい風は「やませ」といい、この暑い雲と共に、涼しい気候をもたらしてくれます。そして、これが北三陸の美味しい海の幸、山の幸になるのです」。
正直なところ、当日はやはり少し残念な天気だと思っていたのですが、後から思い返すたびに、この暑い雲と独特の青い色の海、冷たい風は、今でも印象に残っています。
下苧坪さんの案内で、最初に赤ちゃんうにの養殖場へ。
なんてかわいいんでしょう(笑)
こんなふうに養殖されているのを初めて見て、驚きました。
その次はうに剥きの加工場へ。大きくなったうにがたくさん水槽に入っています。
ここでは生まれて初めてのうに殻剥き体験!
専用の器具を使ってバリッとうにに突き刺し、半分に割ります。
そこから、ピンセットを使ってうにを取り出すのですが、きれいにとるのが難しい…
うにが高いのは、こうして人の手をかけなくてはいけないからなんですね。
これまではうには、うに単体(しかも中身だけ)の存在であったのが、うにが育つ海と、そこに関わる人々の姿を感じられるようになりました。
その他、下苧坪さんにはアワビやホタテなども剥いていただき、その場でパクリ!新鮮な素材そのものの味わいを体感しました。
ついに、お待ちかねの食事のスタートです。
今回は、下苧坪さんとこれまでさまざまなプロジェクトで一緒に活動してきた、福島県いわき市の「Hagi フランス料理店」から、萩春朋シェフが北三陸まで来て、料理に腕を振るってくれました。
とうもろこしのムース
田野畑山地酪農牛乳燻製バター、パン
北三陸ファクトリー殻付きうにとコンソメじゅんさい
カネシメ水産のいくらと岩手銀河のしずくのオリーブマリネ
北三陸魚のスープドポワソン
岩手柿木畜産短角牛シマチョウ、田野畑山地酪農牛乳チーズ(白仙)のサラダ
北三陸ファクトリーうに、荒海ホタテ、鮑のパイ包み
北三陸ファクトリーうにのじゃじゃ麺 ビーフン
北三陸ファクトリーうにバターアイス
最後に、温かい「岩手椎茸昆布茶」のうまみと塩味がほっとさせてくれました。
どれもこれも、岩手の食材を用い、奥深い味わいに料理してくれており、一皿一皿に、参加者の皆さんの感激の声が聞こえてきます。
新しい料理が出るたびに、萩シェフが解説をしてくれるとともに、今回さらに素晴らしかったのが、これまた北三陸の岩手県野田村にある「涼海(すずみ)の丘ワイナリー」の醸造長であり、岩手では数少ないシニアソムリエでもある坂下誠さんが、料理に合わせたお酒をサーブしてくれることです。
料理単品の美味しさはもちろんですが、お酒と合わせることで味わいがより豊かなものになったり、新しい味わいが感じられたりと、北三陸の海風を感じながら、岩手の料理とお酒を最大限に楽しむ時間となりました。テロワージュのコンセプトである「究極のマリアージュは産地にあり」を表現した時間となりました。
今回、最も印象に残ったのは、料理やお酒はもちろんなのですが、それを作る生産者やシェフ、ソムリエの「想い」。岩手県の名産でもある短角牛生産者「柿木畜産」の柿木敏由貴さんも一緒にテーブルを囲んだ生産者の一人。お話では、「美味しい食材を作りたい」という熱意はもちろんのこと、それ以上に感じたのが地域への想いです。自分のことだけを考えているのではなく、地元の暮らしや環境を守り、後世にその美味しさや気候、風土を残していこうという熱い思いを感じました。
また、今回、岩手県での食のイベントにもかかわらず、なぜ福島の萩シェフが料理を行うのかと思われた方もいるかと思うのですが、北三陸ファクトリーの下苧坪さんからの最後のご挨拶でその訳を知りました。ここに集う生産者や、参加者の中にも、東日本大震災が大きなターニングポイントになった方が多いと思います。震災後、下苧坪さんと萩シェフは様々なプロジェクトで共に活動をしてきたのですが、そのたびに、下苧坪さんが感じているのは「福島の復興なくして、震災の復興なし」との想い。岩手だけでなく、地域を超えて手をつなぎ、共に復興を目指すその想いに、心を打たれました。
「テロワージュ」もまた、宮城県仙台市の秋保ワイナリー代表の毛利親房さんが、震災をきっかけに始められた活動です。その想いに共感し、北三陸ファクトリーの下苧坪さんも、涼海の丘ワイナリーの坂下さんも、そして萩シェフも、同じ熱い思いを持つ方たちと共にテーブルを囲み、素晴らしい時間を共にできたことが、何よりも貴重なことだと思います。
今後、北三陸ファクトリーさんでは折に触れて「テロワージュ北三陸」を開催していきたいとのこと。ぜひ皆さんにもこの感動を味わっていただきたいと思いました。
https://kitasanrikufactory.co.jp/
https://www.suzuminookawinery.com/
http://www.kakiki-chikusan.com/