東北最大のいちごの産地として知られている宮城県亘理郡山元町。この場所で、50年以上もいちごを栽培しているのが「いちご屋 燦燦園」です。
燦燦園のこだわりは、「とにかくおいしい完熟いちごを、生で味わってもらうこと」。今シーズンも、とびきりおいしいいちごが、ハウスで育っています。
「父親の作るいちごが、子どものときから大好きだった」と話す代表取締役の深沼陽一さん。家業を継ぐつもりはなかったそうですが、「20代前半で戻ってきて、いちごづくりと経営を教えてもらって。直売所もつくって、さあこれからもっと広げていこうかっていうときに、震災が起こったんです」。
当時「深沼農園」の屋号でいちごを育てていた燦燦園のハウスにも、津波は到達。「でも、1棟残ったんです。ほかの農家さんのハウスがなくなってしまった中で、なんだか『いちご、続けろよ』って言われているみたいな気がしました」と、深沼さん。
震災のあった2011年11月には「燦燦園」に改名し、深沼さんが代表取締役に。「燦燦園っていう名前は、亡くなった母親が『私が死んだら、葬式で美空ひばりさんの『愛燦燦』をかけてね』って言っていたのを思い出したから。それに、いちごをつくるのに大切な太陽の燦燦と、英語のSUNにもかかってるからいいな、って思って」。
子どものころから大好きだった父のいちごを、母の願いのこもった名の農園で育てる―。家族の想いをひとつに、深沼さんはいちご栽培は復活させました。
深沼さんが代表に就任してからは、これまでの知見と技術に加え、ITを取り入れての栽培が開始されました。「1日を6分割して、いちごにとって最適な環境をつくるんです。冬場であれば、日の入2時間後、寒くてもハウスを開けて室内の温度を下げます。すると、葉と実も冷たくなるので、根っこがそちらへの養分を優先させる。そして、日の出の2~3時間前に暖房を入れ、室内を光合成が始まる16℃にしておくと、太陽が出るのと同時にいちごが光合成を始めます。以前はこれを人の手でやっていたんですけれど、そこを機械に任せることで、人は別のことができるようになったわけです」。
光合成に必要なCO2も、以前はハウス中央部に置いたCO2発生器から噴射していましたが、「それだと、換気をしたときにCO2が外に出ていってしまって、均一ではなくなってしまいます。なので、ヤシガラを使った培地にはわせたパイプから直接CO2を当てるようにしたんです」と、燦燦園ならではの環境管理方法を教えてくれました。また、オリジナルの液体肥料をいちごに与え、排液を分析し、いちごが何を吸って何を吸わなかったのかをチェックしているそう。
先端技術を駆使しながらも、「どのいちごが、お客さまのもとに届くのにふさわしいのか」を判断するのは、人。摘み取りは昔も今も変わらず人の手によって行われています。
「ちょっとこのいちご、食べてみてください」。手渡されたいちごを口に含むと、あふれんばかりの果汁が滴ります。そして、濃くて甘くて、なにより香りが強い!取材陣が目を丸くしながら口々に「おいしい!おいしい!」という姿を見て、目を細める深沼さんの姿が印象的でした。
もともと「深沼さんのとこのいちごを食べたら、ほかのは食べられないよ」といわれるほどにおいしいと評判だった燦燦園のいちご。以前は知る人ぞ知る存在でしたが、その味を武器に、深沼さんは次々と販路を広げていきました。
一流デパートの高級青果店や有名パティスリーのパティシエなど、「燦燦園のいちごでなくちゃ」というファンを確実に増やしていったのです。しかし「うちは『完熟・生』にこだわっているので、中1日で届けられる場所じゃないと、販売できないんですよ」という徹底ぶり。
そこで深沼さんは「うちのいちごのおいしさを、もっと多くの人に知ってほしい」と、完熟いちごを丸ごと凍らせてそれを削った「いち氷」を開発、販売。練乳をかけていただくこのひんやりスイーツは、通販も可能で、全国どこでも燦燦園のいちごのおいしさを味わうことができます。
2022年には、仙台市若林区に新たなハウスも完成し、観光農園とスイーツショップをオープンさせる予定です。「おいしいと楽しいし、楽しいとおいしいじゃないですか。いろんな人に笑顔になってもらえたらいいなと思って」。そう話す深沼さんの表情は、燦燦と輝いてみえました。
とびきりジューシーで甘い、燦燦園のいちご。テロワージュとして合わせたいのは、宮城県内で唯一スパークリングワインの醸造設備を導入している了美ワイナリーのブリュット(スパークリングワイン)。シャンパーニュ地方の伝統的な製法である瓶内二次発酵で、きめ細やかな泡が特徴です。
90年代の名作映画『プリティウーマン』で、ジュリア・ロバーツ演じるヒロインがシャンパンにいちごを合わせてロマンチックな夜を過ごしたように、燦燦園のいちごと了美ワイナリーのブリュットでスイートな時間を過ごしてみませんか。