80種類のりんごが実る果樹園

2021年11月2日

岩手県紫波町で、たくさんの種類のりんごを育てている農園があります。それが吉田聡さん、美香さんご夫婦が営む「サンファーム」です。

夏は観光農園として人気

盛岡市のベッドタウンとして人口が増えている紫波町の小高い丘に広がる10haの圃場。ここでは、サクランボやブルーベリー、ハスカップ、ラズベリーなどが栽培されています。観光農園としても親しまれ、夏のフルーツ狩りは観光客にも大人気。特に、枝を左右に広げ、水平に伸びた枝に結実させる垣根栽培のサクランボは、子どもでも手の届く場所に実がなっているため、小さな子どもたちも大はしゃぎでサクランボ刈りを楽しんでいるのだそう。

また、サンファームでは、生産だけでなく事業所向けの加工からオリジナル商品の開発、販売までも手掛け、全国のグルメファンを虜にしています。

オンリーワンを目指して

そんなサンファームの一番の特徴は、りんごの種類の多さ。その数およそ80種類というから驚きです。日々手塩にかけて育てている美香さん自身が「地図がないとお目当ての木にたどり着けないの」と笑うほどに、多様なりんごが植えられているのには、大きな理由がありました。それは、サンファームがりんご農家としては後発組だったこと。11代目である聡さんは「うちは昔から同じ岩手県の盛岡市で米を作っていて、ここで果樹をつくり始めたのは13年前。だから、人がやっていないものをつくって、オンリーワンを目指そうと思ったんですよ」と教えてくれました。

その言葉通り、レディーカナダ、マスカットグレネット、コックスオレンジピピンなど、岩手県、いや、日本全国どこを探しても、サンファームでしかつくられていない品種も多数あります。「海外の品種では、ここの土に合わずにあきらめた品種もあります。本当にチャレンジの毎日で失敗することも多々ですね」と聡さんが話すと「多々どころじゃないでしょ。多々多々多々でも足りない(笑)。でもね、あきらめようと思った時にいい芽をつけたりするんです。そんなときは、『頑張ったね』って、思わずりんごに声をかけちゃうの」と、美香さん。

農業生産者のプラットフォームに

サンファームでは、減農薬の特別栽培に取り組んでいます。聡さんは「岩手では、農薬は36成分と決まっているのですが、うちでは18成分以下でやっています。やり始めて7年目ですが、お金も労力もかかりますから、本当に挑戦。いつでも試行錯誤中なんですよ」。 チャレンジの日々。農業を続けていくことのモチベーションは、どんなところにあるのでしょうか。「うちのフルーツはパティシエさんやレストランに行くことが多いんです。パティシエさんやレストランの向こうにはお客さんがいるでしょう。自分の果物を使ったお菓子や料理を食べて美味しいと思ってもらえると、うれしいんですよ」。そう言って聡さんは微笑みます。

果樹や栽培に関することだけではなく、聡さんは、お菓子づくりについても勉強を欠かしません。「せっかく使っていただくんだから、ちゃんと知識を身に着けるべきだと思ってね。パティシエさんによっても、つくるものによっても、どの品種がいいのか、こちらでどう加工したらいいのかも変わってきます。これだけの品種があるのがうちの強みなので、要望に応じたオーダーメイドでお出しできればいいなと思っているんです」。
このようなパティシエのみなさんとの協働から、サンファームでは岩手の食材を使った新たな可能性を模索するプロジェクトも実施。この活動は「地元の農業生産者のプラットフォーム」として、「首都圏―盛岡のパティシエの交流」「生産者とパティシエの交流」「若い生産者の育成」などさまざまな角度から地元食文化の発展を目指しています。 生産者にとっては、商品を開発する際に、料理人からのアドバイスや同業経営者と触れ合える場となるため、その存在価値は各所から大きな注目を集めているのです。

ファーマーズプライドが生み出すテロワージュ

岩手のテロワールが育んだ果実たちを、ときにそのままに、ときにプロの目を通して世に送り出しているサンファーム。
そんなサンファームから提案したいテロワージュは、吉田さんご夫婦が手づくりした季節の果物のジャムと紫波町の「自園自醸ワイン紫波」の 地ワイン。ぶどう農家の「自分たちのぶどうでワインを作りたい」との思いから誕生した芳醇なワインに、季節の果物のジャムをたっぷり乗せたクラッカーを合わせれば、口いっぱいに岩手のテロワールが広がっていきます。お休みの日の午後や、ちょっとのんびりしたい夜に。ぜひ、ご自宅のテーブルで、ファーマーズプライドが育てた粋なグルメを味わってみてはいかが。

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