仙台市の郊外、泉区紫山の閑静な住宅街に2020年11月にオープンしたレストラン「PORTTAVOLA(ポルタ―ヴォラ)」。
食材や人が集まる「港」と人を迎える「扉」を意味するイタリア語のPORT(ポルト)と、同じく食卓のTAVOLA(ターボラ)を合わせた店名には、宮城の食材に関わる人やモノ、コトが集まる場としての願いがこもっています。
長年ホテルのシェフとして腕を振るってきたオーナーシェフの瀬戸正彦さんは、食材王国みやぎの「食の伝え人」として食育活動もされるほど、宮城の食に精通し、生産現場への思い溢れる人。「食の生まれる背景とともに、お客様に感動の一皿を提供したい」とレストラン開業に至りました。
地元の食材で地域を盛り上げたいという思いは、2011年の東日本大震災がきっかけ
仙台市内で西洋野菜や伝統野菜を作る農家さんや、同じく市内の葉物が得意の農家さん。松島湾で手間を掛けてぷりぷりの身の牡蠣を育てる漁師さんなど、瀬戸シェフと繋がる生産者は20人を越えます。「鮮度抜群のその日の食材を見てメニューを決めます。最高の状態のものを最高のタイミングで食べてもらいたい」と、同店は完全予約制で同時刻スタート。メニューはおまかせコース(3コース)のみです。
例えば、「旬の野菜のグリル」。素材を生かした美味しさは出来立てに限ると、素早く提供しながらも「今の宮城の大地を表現した一皿です」と食べる側の心躍る一言をさらり。もちろん、それぞれ絶妙な火加減で提供される、ひとつひとつの野菜の味わいも口の中で踊ります。
瀬戸さんは、料理の得意な母親の影響もあり、料理人の道に進みました。「本当は船のコックになりたかった」そうですが、そちらは坂本龍馬の影響とか!? 調理師専門学校を出た後、フランス料理の料理人として横浜や仙台市内のホテルで30年以上経験を積んできました。最後に料理長を務めた「トラットリア・クッチーナ・オランジェリー」(2020年3月閉店)は地産地消で旬の宮城の食材を楽しめる店として知られたお店でした。
「ここで地産地消を進化させ、生産者と直接取引を始めたのが今に繋がっている」と振り返ります。一般的に食材の量が必要なホテルでは仕入れの都合もあり、なかなか生産者の顔が見える食材は使えないことが多いですが、瀬戸さんはホテルの本部に掛け合い直接取引を開始。
「野菜や魚介など、生産現場に足を運ぶたびに、旬の味わいの彩りや食材の豊富さを知りました。そして、大規模でなくても食べる人を思って無農薬、低農薬などこだわりの野菜を汗水流して育てる生産者の話など伺うにつけ、料理人としてその背景も込めて伝えたいと思ったんです」
多くの生産者は、自分の野菜がどこでどんな風に食べられているかを知ることはなかなかできないもの。でも直接つながりのあるお店があれば、どんな風に調理され、食べた人の反応はどうなのか、自分の野菜のゴールが見えます。生産者さんのモチベーションにつながるのはいうまでもなく、家族や知り合いを連れてきて「うちの野菜だよ」とうれしそうに食べる場面もあったそうです。
互いの行き来が増え、「こういう野菜が欲しいとか、こういう野菜を作ったよ…なんていうキャッチボールができるようになった」と瀬戸さん。野菜を作る・買うという関係性だけでなく、料理人と生産者がともに食のクオリティーを上げる仲間になっていきました。
絶妙な火加減でぎゅっと旨みを閉じ込めた野菜のグリル。シンプルに塩のみ、時にアンチョビやバジルのソースで味わう
そうした中で、瀬戸さん自身の料理に対する概念も変化。素材に味を足し算していくフレンチから、食材の味そのものを楽しんでもらうために旨味引き出す塩とオリーブオイルをまとわせるといったシンプルな調理が増えました。
今の店では、「鮮度を重視し、火を入れる、切り分けるといった仕込みはほとんどしない」とのこと。冷凍保存もほんのわずかながら味が落ちるという理由で肉類の扱いは最小限に。
野菜と魚介が中心の軽めなメニュー構成のため、合わせるのは白ワインという方がほとんど。もちろん、ひと口に白ワインといっても表情が多彩なのはいうまでもないのですが、「主張しすぎない、料理にそっと寄り添うワインを勧めています」とは、ソムリエの川村武明さん。こちらも生産者の思いのこもった各国のナチュール(自然派)ワインをメインに、地元の食に合わせ東北・宮城のワインも数種揃います。食事の最初から最後まで通せるロゼなども人気です。
左からスーシェフで息子さんの瀬戸周朔さん、瀬戸正彦シェフ、ソムリエの川村武明さん
オープンして1年。コロナ禍の厳しい状況に関わらず、以前からの瀬戸さんファンを始め、クチコミで訪れる新しい客も増えたとか。「遠方からの親せきの集まりに地元食材の料理でもてなしたい」など、近所の方々の利用も地元密着店の喜びです。
レストランならではのお客様との距離も魅力で、「料理への反応がカウンター越しにダイレクトに見えるのがいい」と瀬戸さん。「この野菜はどこで買えるの」「次はいつ食べられる(入荷する)の?」と聞かれると嬉しいと話すのも、この一皿の向こうの生産者の存在や、自然相手の畑とのつながりがちゃんと伝わっていると感じられるから。
目指すのは「食の宝庫である宮城のいいものを、宮城で食べてもらう」仕組み。
「私たちが生産者のオリジナリティや質の良さを大事に、みんなで使って広める。食べた人の喜びをフイードバックできれば、農業をやりたい人が増え現場の底上げになる」。
熱い思いを秘めたスタッフの皆さんの柔らかなサービスにも気持ちがほぐれ、錨を下すようにゆったりくつろげます。宮城の人と風土を想う美味しい料理とお酒に出合う。地元人こそ通いたいお店です。