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【仙台「keisuke Matsumoto」松本圭介さん】幾重にも重なる味と香りのアンサンブル。記憶に残る一皿を

 

運ばれてきた一皿には、ローリエの葉からすっと煙が立ち上る演出が。その味わいやサービスにも心躍る「keisuke Matsumoto」。仙台市中心地から車で30分ほどの市街地を見渡す丘陵地。住宅展示場の一角というちょっとユニークな場所ですが、2020年5月のオープン以来、シェフの松本圭介さんの独創的な料理を求め、全国から食通が訪れる知る人ぞ知るレストランです。

子どものころから、なぜかフランスに強い憧れを抱いていたという松本さん。高校時代にテレビで見た、フレンチシェフの姿が料理人を目指すきっかけになったそう。地元・仙台の老舗仏料理店「もんこぱんあづまや」で5年半の経験を積み、25歳でフランスへ、との念願を叶えて渡仏。辞書を片手にレストランに求職の手紙を書き、住み込みで働きながら料理修行をスタートさせました。

実は、最初は憧れのフランスに行きたい一心で選んだという料理の道。それでも「なるべくしてなる人」の運に導かれているのか、本場・フランス料理の現場での体験や、フランスで出会った日本人の料理人たちの熱い思いにも触発され、「途中から俄然、料理人としてやる気になっちゃったんです」と愉快そうに話します。

松本さんは、フレンチのヌーベルキュイジーヌをけん引したアラン・サンドランスがシェフを務めたパリ「Lucas Carton(ルカ・カルトン)」のほか、ロワール地方トゥールの「Jean Bardet(ジャン・バルデ)」、海に囲まれたブルターニュの「Le Bretagne(ル・ブルターニュ)」などで経験を積みました。星付きのハイクラスなレストランでの経験だけではなく、特に地方の食に触れる機会を求めたのは、「まかないで出てきたすごく美味しい料理が、見習いの子が母親から教わったという家庭料理でした。彼が仕事でつくる料理はそう上手くないんですよ(笑)。フレンチのレシピ本にもない、その土地や家庭で受け継がれてきた遺伝子みたいな料理に惹かれていました」とその訳を語ります。

「リヨンで出会ったおばあちゃんの料理は、セロリをフォンドボーで煮込み、チーズをたっぷりかけてオーブンで焼いたもの。見た目は地味だけど忘れられない味わい。また、セップ茸の時期は、地元の人が採ってきたキノコをかごに入れて店の前に行列するんです。それをシェフが品定めしながら買う光景が風物詩でした。ジャン・バルデでは、庭の菜園で育てたハーブや野菜、花をふんだんに使っていました。暮らしの中で手に入れる、取れたてを使うというスタイルは当時の日本にはなかった。ネットなどの情報もない時代、実際にその土地に身を置いて体験した食文化です。本場ならではの勉強になりましたね」

日本人フレンチシェフとして世界に表現「和魂洋才」

30歳で帰国した後は、日比谷のビストロ「LES SAVEURS(レサブール)」(パティスリーシェフは高木康政氏)、世田谷「PAS DE CHAT(パ・ドゥ・シャ)」、ROPPONGI HILLS CLUBのオープニングシェフを経て、ブライダルカンパニーのエグゼクティブシェフを務め、2014年よりシンガポール「LEWIN TERRACE(ルーインテラス)」エグゼクティブシェフに就任。「和魂洋才」をテーマに掲げ、和の食材を生かしたジャパニーズフレンチで人気を博しました。

富裕層が多くトレンドの波が早いシンガポールから料理で日本を表現する発信を続けるシェフとして、日本各地で講演会やイベントを行うようになった松本さんは、2018年からフリーランスに。仙台にも2016年にトークショーで訪れて以来、松本さんの独創的なアプローチの料理に魅了された食通たちからの依頼でたびたび訪れていました。

そして、2020年機会を得て、地元・仙台で店をオープン。

「フランスにいたときから、いつかは地元で店をと思っていました。牡蠣やオマール海老が美味しいブルターニュ地方では、宮城の牡蠣料理に生かせる調理法がたくさんあると思って働いていたんです。山も海もある宮城の食材は魅力です」

特に蔵王の野菜はお気に入り。産直にも足を運び、食材や生産者との出会いを楽しんでいます。

香りとスパイス使いにうっとり。一皿で複層的な味わい

色合いのキュートさに歓声が上がりそう。前菜の1品「タブレロゼ」と「ロゼ アサンブレ」(了美ヴィンヤード&ワイナリー)

松本シェフの料理は、香りとスパイスが印象的。例えば、前菜には「タブレロゼ」と名付けられた蔵王産ラズベリー、ビーツを使ったクスクスのサラダ。ワイングラスで供される鮮やかなピンクのグラデーションに歓声が上がることは間違いなしです。オマール海老に、ラズベリーピュレで炊いたクスクス、ドラゴンフルーツの赤紫蘇マリネ、ビーツのビネガーシロップ漬、ミルキーなカリフラワーのピュレ、それぞれの層を混ぜながらいただきます。合わせるのは色合いのリンクもおしゃれな「了美ヴィンヤード&ワイナリー」(宮城県黒川郡大和町)の「ロゼ アサンブレ2019」。マスカットベーリーAとスチューベンを使った、ベリーの甘い香りとドライな後味が酸味のある1品との食事のスタートにぴったり。次々重なる味と香りに食欲が刺激されます。

栗原市のブランド豚「32℃豚」のロースト。スパイス(クローブ、コリアンダー、カルダモン)をまとったパイナップルのオーブン焼きが添えられている

メインの一皿には、栗原市高清水のブランド豚「32℃豚」のロースト。「32℃豚」は、良質の国産原料をもとに自社工場でつくった飼料と、ミネラル豊富な地下水で育てられていています。「特長は脂の融点が低いこと。肉質の旨味はもちろんですが、舌の上でさらりと溶けて広がる脂の旨味がいいですね」(松本さん)

この32℃豚のバラ肉を一度蒸した後、庭から摘んだローリエの葉の香りをつけながらローストしました。こちらには、ニッカウヰスキー仙台・作並の宮城峡蒸留所でつくられた「宮城峡」のハイボールを。華やかでフルーティーな香り、まろやかな深みもあってキレもある味わいにファンが多いシングルモルトです。

煮詰めたウイスキーを隠し味にしたマスタードシードのソースや、提供時にローリエを炊いて燻らせる香りの演出など、スモーキーな風味を合わせたひと技が効いています。

お店では、ワインや日本酒などの好みのお酒を、料理に合わせてペアリングしてくれます。また、お酒をご自身で持ち込むのもできます(別途持ち込み料金有)。

生産者と料理人の繋がりが、未来の宮城の食材の魅力を高める

高台の店内から遠くは海まで見渡せる。1日1組(4人~)限定なので、ゆっくりじっくり料理とお酒に浸りたい。松本さんの軽快なトークも楽しみだ

和魂洋才をテーマに腕を振るう松本さん。フレンチを提供する日本人として、日本にいるときには思いつかなかったテーマを、第3国のシンガポールで気づかされたと振り返ります。海外から見た日本。フランスから見た地元・宮城。特にこの10年は、東日本大震災や原発事故もあり、自分が食を提供する意味合いを考えさせられたそうです。

各地の料理教室や、食のイベント、ケータリングなどでも活躍。コロナ禍で提供するお弁当なども「今はどんなシチュエーションも楽しんでいます。海外経験を重ねているときから、いつかは…と思っていた地元での開業。50歳も過ぎたのでちょっとエッジの効いたものを提供して行きたいと考えています。海も山もある宮城の食材を存分に生かせるよう、生産者と料理人がもっと話し合って、互いに協力しながら、おいしい食材、美味しい料理を提供していけるようにできたらいいですね」

厨房での調理の姿もサービス時の立ち振る舞いにも、どこか優雅でチャーミングな松本さん。そんな松本さんの遊び心ある演出、独創的なアプローチの料理は、新しい宮城・日本の魅力を体験させてくれそうです。

基本情報
施設名
Keisuke Matsumoto(ケイスケ・マツモト)
所在地
宮城県仙台市泉区南中山1-35-61 ※2022年1月閉店、ランチボックス、ケータリングなどは継続していますので、最新情報はSNSでご確認ください
電話番号
070-7565-9866
料金(目安)
ランチ6000円~、ディナー12000円~ ワインなど持ち込みの場合は、1500円/1人
定休日
完全予約制(1日1組・4人~)
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