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【菜園料理家・藤田承紀さん】食卓が笑顔で華やぐ 簡単&美味しく美しいイタリアンレシピを提案

藤田承紀シェフ料理クロッカンテ

 

自ら畑で野菜を育て、野菜の旬や本来の美味しさを伝える菜園料理家・藤田承紀さんが手掛けるのは、野菜を中心にしたイタリアン。ほがらかな人柄を写したようなポップな雰囲気が魅力です。昨年、地元の千葉県から自然栽培の農園を営む奥様の実家のある仙台に移住。料理家としてだけでなく、ダンサー、真鍮作家など多彩な顔を持つ藤田さんの料理への思いを伺いました。

 

本当の食の豊かさを考えたイタリアでの経験

「最初はプロのダンサーを目指していたんですよ」。料理家の経緯を伺うとこう切り出した藤田さん。大学で始めたダンスは、卒業後すぐに日本最大級のダンススクール「エイベックス・ダンスマスター」のインストラクターをする腕前。ところが順調に仕事も増えた頃、左膝の半月板を負傷してしまいます。手術が必要と言われたほどでしたが、自然療法を選ぶと、「食事を正すこと」も条件に歩いて治せるとアドバイスをもらいました。そこで気分転換とリハビリを兼ねてイタリアへ。ここで食への関心が大きく開きます。

「イタリアの人たちの食の楽しみ方に驚きました。若い人も自分の国や地域の食に愛情と誇りを持っているんです。昼夜逆転の生活でファーストフードで過ごしていた自分の食事を見直し、食の大事さを考えるきっかけになりましたね」

藤田承紀シェフ
人生の転機になったイタリア行きは、当時イタリア食材の商社を経営していた父親の影響が大きかったと藤田さん

 

帰国後、料理を仕事にしたいと、料理研究家の小枝絵麻さんのアシスタントの仕事に就きます。ケガも克服し、ダンスの仕事も並行して続ける中、『ELLE gourmet(エルグルメ)』(ハースト婦人画報社)で開催していた若手料理人のコンテストに参加してみると…結果は優勝!ここから本格的に技術を磨こうと、再びイタリアに料理修行へ。外国人を対象に実地研修の制度が整っている料理学校「ICIF(イチフ)」やその研修先のトスカーナのレストラン「IL PELLICANO(イル・ペッリカーノ)」などで経験を積みます。

最初は言葉が分からない分、同僚とのコミュニケーションにも苦労したと藤田さん。それでも店の中で重要なポジションを任されたり、留学10カ月間の最後の月には全料理人の中でMVPになったりと「料理人としてのベースになった」と振り返ります。

ワイナリーを巡るなどトータル1年の修業を経て帰国後、藤田さんが最初に始めたのは自然農法での野菜作りでした。

 

「野菜の本当のおいしさや旬を知って料理に生かしたいと思ったんです。せっかく自分で作るなら、環境に負荷をかけない栽培をしようと」

料理アシスタントの仕事もしながらの畑仕事でしたが、農業の現場から料理の世界を観ることは得難い体験でした。そうするうち、声を掛けられ料理家として活動をスタート。レシピ開発や雑誌等への寄稿、デモンストレーションなど裏方としても表に出ることも得意な藤田さんは幅広く活動を始め、すぐに初のレシピ本『野菜のチップス』(文化出版局)の出版も果たします。

家庭料理に焦点を当てたのは、以前、ダンスレッスンの際に、子どもたちが夜ご飯にスナック菓子を食べていたことが気になっていたから。「事情もあると思いますが、自分自身、食べたもので身体が作られるのを実感していたので、健康の基本になる家庭の食にアプローチしたいと思ったんです」

 

秋保ワイナリーでのオンライン料理教室を行う藤田承紀シェフ

オンラインでの料理講座では、ユーモアとリズム感ある話しぶりに惹き付けられる
「これが僕の強み。ダンスレッスンで鍛えたおかげです」

 

レストランは立ち上げから関わる経験も。「畑の近くにあった障がい福祉サービス事業所と交流があり、レストラン開業を手伝いました。印象深いのは、利用者さんたちは僕の料理が出来上がるのをじっと待っていて、100%向き合って食べてくれる。美味しいと言って泣く子もいたんです!僕自身が生まれつき左耳が聞こえず、脳の病気も患っていたので、いつか福祉に関わりたいと思って始めたことでしたが、料理人として貴重な体験をさせてもらいました」

そうして2017年にオープンした「らんどね 空と海」(千葉県船橋市)で、週の半分、子どもたちと一緒にピザ釜でピザを焼いて提供するなどしてきましたが、コロナ禍に入り休業に。藤田さんも2020年に奥様の実家のある仙台に移住しました。

 

野菜を生かして美味しく楽しく。料理する人を増やしたい

藤田承紀シェフ料理いちごピザ

「らんどね空と海」で提供していた人気メニューのひとつ。
近所の農家さんが作る完熟イチゴを生かした。傷みが早いため、市場に出回らない

 

 

さて、藤田さんの料理と、お薦めのペアリングを伺いました。まずは「苺と落花生バターのピッツァ」。イチゴ本来の甘味と香りが際立つ完熟イチゴを主役にモッツァレラチーズ、落花生バター(無糖)をトッピングしています。落花生バターは、ローストしてすりつぶした作り立て。香ばしい香りが立ちあがり、味のアクセントになっています。

手作りするときは、とても大変ですが、落花生の薄皮を剥いた方がより美味しいです』とのこと(薄皮の渋みとシードルの酸は合わないそう)。もちろん、市販の落花生バターでもOK。また、ピザ生地はバゲットに替えても美味しくいただけます。

秋保ワイナリーシードル

和食にも合うと守備範囲の広さも人気。
「イケメン農家のりんごを使ったシードルですよ!」と藤田さん

 

ペアリングのパートナーには、秋保ワイナリー(仙台市青葉区)のシードル「Banji Cider Brut」。亘理町のふじりんごと名取市のサワールージュという宮城の2種類のリンゴを使った、ほのかな青りんごの香りときれいな酸味が特長。晴れた日に外で飲みたくなるような爽やかさです。

「アルコール低め(6.5%)で、気軽に楽しく飲めるお酒。きりっとした酸が心地よく、料理の油を切ってくれるのも食中酒にぴったり」(藤田さん)。イチゴのフレッシュな香りやチーズのコクのある風味、ピッツァの軽やかな生地感に寄り添う、ちょうどよい味わい。

藤田承紀シェフ料理クロッカンテ

クロッカンテは、カリカリに焼いたという意味。
さっと火で炙って添えたローズマリーが、香り立つ上質な風味づけに

 

 

シードルに合わせてもう一品「ジャガイモのクロッカンテ ローズマリーと林檎のスモーク」。生地はじゃがいもを粗くすりおろして、かたくり粉、玉ねぎ、パルミジャーノ・レッジャーノを混ぜ合わせもの。フライパンで表面がカリっとするまで弱火で20分ほど焼いた後に、リンゴの木のチップで軽くスモークを掛け、シードルと香りを合わせています。

「もっと気軽に、ポテトチップスをリンゴ(のスモークチップ)でスモークしてもいいし、ポテトチップスとリンゴチップスを一緒に食べながら飲んでもペアリングを体験できますよ」

 次々出てくる楽しいアイデアは試してみたくなるものばかり。さらに初心者にも分かりやすいペアリングとして、「色や香りを合わせることからやってみるといいですよ」とアドバイスしてくれました。例えば、イチゴのピッツァは、メインのイチゴの色からの発想でロゼワインもお薦め。色とともにワインの香りの中に「ベリーの香り」があれば風味がリンクするので、赤ワインにも合うものが多いそう。

「気軽に美味しく楽しく。料理する人が増えれば、食に対する理解が深まる。健康のこと、農業のことにも繋がります」

 

目指すはダ・ヴィンチ!? ライフスタイルを仕事に

藤田承紀シェフ
野菜やワインの「情報」より「情景」を伝えていきたい。
お薦めのポイントは「僕が好きな作り手さんだということ!」

 

これからは料理と並行して続けてきたダンサーの仕事や、真鍮作家、木工作家の仕事を究めながら、仙台での暮らしや自分自身を発信し仕事にしていきたいとのこと。

環境に配慮したワークショップや商品開発などを行う「LUNNY’S VEGGIE(ラニーズベジー)」でユニットを組む人気キャラクターアーティストのTAROUT(タロアウト)さんも、ともに仙台での活動を始めています。

このところ副業だけでなく、複数の仕事を持つ「複業」も注目されていますが、好きなことを軸に、仕事や人との出会いを次々に引き寄せていく藤田さんのユニークな活動は、追いかけたくなるかも。ファンが多いのもうなずけます。「どんな経験も無駄はなく、次に生きてくる。目指すはマルチに活躍したダ・ヴィンチ!?」と笑います。

 人懐っこい笑顔とポップな雰囲気で料理を繰り出す藤田さん。独自のセンスで紡ぐ宮城の食や作り手などの発信も楽しみです。

藤田承紀シェフ

LUNNY’S VEGGIE 代表

http://fujitayoshiki.com/

藤田さんのレシピは、YouTubeチャンネル「LUNNY’S VEGGIE TV」でも公開中。

 

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